「平岡義博(ひらおか・よしひろ)立命館大学特別招聘教授 プロフィール」
元京都府警察科学捜査研究所に勤務、「法律家のための科学捜査ガイド―その現状と限界」の著書があり、現場に精通した専門家と知られる。今年4月に設立された「えん罪救済センター」の運営委員として活動。冤罪事件の当事者及び代理人に対する支援を無償で続けている。
今年4月、立命館大学の研究者が、「えん罪救済センター」を設立しました。刑事事件の冤罪の被害者を支援し救済することが目的で、冤罪事件の再検証を通じて公正・公平な司法の実現をめざしています。90年代に米国で始まり、現在、全世界で広がりつつある「イノセンス・プロジェクト」の日本版として発足、すでに200件近い相談が寄せられています。同センターの運営委員のひとりで、同大学特別招聘教授の平岡義博先生と意見交換を行いました。
●科捜研の近畿全体の統合めざせ
北川:冤罪撲滅は人生をかけたテーマで、第一歩は取り調べの可視化です。人権侵害や供述の改ざん、証拠隠滅が多々ありますが、被害者支援などで専門機関の連携はほとんどない。警察庁の科学警察研究所と警視庁、都道府県警の科学捜査研究所との関係も同じです。
平岡:科捜研で対応できないところを科警研で補う2段構え。しかし、捜査と一体となっており、完結型が基本ですね。
北川:関西広域連合のように、近畿全体の科捜研を一つにまとめることができないか。警察や検察から独立した形が望ましい。逮捕から起訴に至るまでの証拠がどう扱われたのか不明で、これでは冤罪を防げない。
平岡:連携の障害の一つは職員の身分です。科警研は国家公務員、科捜研は地方公務員。共に技術職で異動がないため、スキルが共有されない。かつて広域科捜研の構想があったが、陽の目を見なかった。ご指摘のように、近畿だけでもビジョンに取り入れたいですね。予算や人材に限りがありますが、現場から上がってくる資料をすべて、中立性を持って鑑定できるようにしたいものです。
●中立性の確保へ証拠の全面開示を
北川:裁判所に科捜研を置く方法もある。大切なのは中立性です。被告側に有利な証拠は出てこない。証拠に関する考え方を再考しなければ。
平岡:法の不平等がある。被疑者と被害者は全く違う。被疑者は弁護士一人で不利です。科捜研に証拠が残っていないこともある。資料の保管が冤罪防止につながる。
北川:逮捕、起訴した証拠を開示しないで中立性が保てるわけがない。また、調書を全部見れるように、明文化するべきです。それに弁護士の能力の問題もある。
平岡:証拠物件はすべて開示すべきです。国会でも議論があるようですが、日本の司法制度は、当然のことができていない。可視化も都合よく使われている。捜査方針が決まると都合のいいものしか採用しない。日本の役所的な点数主義が妨げている。仮説と背反仮説の両方を比べる公平性が不可欠です。
北川:証拠隠滅やでっち上げのようなことが常態化している。可視化へ一歩を踏み出したといってもわずか2・8%。また、メディアも無力です。冤罪をなくすために証拠の中立性が重要ですが、現場の判断に委ねられている。証拠を使って冤罪を防げるのか、自問しています。
平岡:ネックは警察の体質です。思い込みや見込みの捜査が行われることがあり、警察組織の風通しを良くすることが期待されます。
●公平性へ仮説と背反仮説の比較こそ
北川:捜査の刑事の名前すら出てこない。警察に都合の良い調書がつくられる。全体からみると弁護士以外は皆敵という感じです。証拠を定義づけ、人の目にふれるように明文化しなければなりません。
平岡:プラスの証拠ばかりが採用される傾向がある。鑑定で両方の結果が出ても、すべては開示されない。証拠はすべて開示されることが大前提です。そのために議員の皆さんの後押しを期待したいですね。
北川:証拠が冤罪でどのように作用していくのか、民間との融合する部分が出てくれればと思います。