北川やすとし 兵庫県議会議員 六期

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活動リポート

2022.12.18

冤罪を防げ 活動家に聞く

過日、プレサンス元社長冤罪事件の弁護人を務めた秋田真志弁護士とオンラインで対談する機会を得ましたので、その内容をあらためて記しておきます。

【秋田真志弁護士プロフィール】
しんゆう法律事務所弁護士。大阪地検特捜部犯人隠避事件、プレサンス元社長冤罪事件(以下、プレ事件)などにかかわる。現在、無罪が確定した前社長の国賠訴訟も担当。大阪弁護士会刑事弁護委員会委員長、日弁連刑事弁護センター委員長など歴任。

北川:
可視化されながらも元厚生労働省の村木厚子さんの冤罪、障害者郵便制度悪用事件同様の捜査手法が、同じ大阪地検特捜部で行われた事に憤りを感じ、変わらない検察の現状を危惧しています。秋田弁護士は公判時から携われて、変わらない検察の元凶がどこにあるとお考えでしょうか。

秋田:
なぜ大阪地検特捜部で、同じ事が繰り返されたのかが第一の問題点です。特捜部の考え方が、障害者郵便制度悪用事件後も反省されていないと言わざるをえません。そこに大きな問題があります。

地検特捜部の伝統的なやり方は、先に事件を見立て、それに合わせて関係者の供述をとるという発想です。障害者郵便制度悪用事件は、村木局長が中心に行ったと念頭に置き、部下は指示に従っただけという構図で、背景には政治家が隠れているというまるで妄想のような見立てをしてしまった。それに合わせる形で関係者の供述をとり、有罪にもっていこうとしたのです。

自分たちの見立てに供述を合わせていくこの捜査手法を、刑事弁護に詳しい弁護士の間では「板金捜査」と呼んでいます。型を初めに作って、その型に合わせて板金をしていく、型にはめていくというイメージです。その捜査スタイルが全く変わっていないのです。

今回も学校内で巨額の横領事件が起こったのですが、横領した元理事長を捕まえても大きな事件とは言えません。しかし、当時一部上場企業の社長で、会社の業績も大きく伸ばしていた山岸さんをターゲットにして、大きな事件として描き出そうとしたのです。

取調べの可視化があったかどうかで障害者郵便制度悪用事件とは違いますが、基本的なやり方は一緒です。密室を利用して、関係者に見立てに沿った供述を強要するというものです。供述を強要した特捜部の検察官は、可視化されていたにもかかわらず、長い取調べのすべてを誰も見ないと思ったのでしょうね。

露骨な強要を可視化されている中でやってしまったのです。根本を考えれば、初めに見立てをつくり、それに合わせる形で供述をとろうとする手法は改めないといけないのです。見立てを持つことが悪いのではありません、それに証拠があるのかどうかをきちんと検証していく姿勢が必要なのです。

しかし、大阪地検がしたことは、見立てが正しいかどうかの検証ではなく、見立てに固執するということだったのです。そのような見立てに固執する姿勢が同じ冤罪事件を繰り返した原因です。検察庁内部には、今回の事件を反省する姿勢がうかがわれないという状況で、この問題をどうやって世論や政治の場で議論していくのかが大きな課題です。

北川:
逮捕・起訴した際の警察・検察の情報公開による報道内容や掲載量と比較して、無罪判決の報道内容と掲載量が判決前とは異なります。冤罪被害者より司法側に配慮した報道姿勢と感じざるをえず、冤罪報道の少なさ、冤罪被害者への誠意、人権回復等が希薄に感じられる報道で、国民が真相を認識して課題解決への意識を共有しがたいのが現状に思います。

今回の事件を通して、今後の冤罪被害者への報道のあり方はどうあるべきとお考えでしょうか。

秋田:
これまで事件報道の関係では多くの記者と接してきました。彼らにとって書きやすいのは権力側が一定の判断を示したという部分です。

例えば逮捕した、起訴したなどです。警察・検察発表や、権力側のリークに乗っている限りは、基本的に問題は生じません。それが冤罪かもしれないという意識は希薄です。そのような取材の中で、根本的な問題をどこまで掘り下げているのかが微妙です。

そのような権力情報による報道は大々的になされますが、無罪時の報道は逮捕時の報道と比べて掲載量は圧倒的に少ないものです。非常に希薄な報道しかなされないことが多い上、プレサンス事件について言えば、詳しい報道があったとしても大阪に留まり、東京などでは本当にうすい報道しかなされていません。

検察の特捜部の捜査のあり方が大きな問題を抱えているという側面を、きちんと掘り下げる形になっていません。国民の世論喚起にも繋がらず、国会で取り上げられる事もありません。由々しき問題です。

冤罪被害者にどれだけの苦しみを与えているのか、名誉回復を含めた十分な報道がなされているとは思えません。もっと調査報道、掘り下げた調査や報道がどこまで出来る体制になっているのか、また冤罪被害者の声をきちんと聴く基本的な事をもっと地道にして頂きたいと思います。

北川:
公正世界信念、正義は報われ悪は罰せられるという思い込みの世界観。司法によりこの信念が揺るぎ、思い込みをすりこまれ、公判前から人権侵害が行われている状況が冤罪に繋がっていると感じています。

司法による冤罪被害者への支援は十分でなく、要因となった司法側の行為の証拠等の全公開と説明、人権回復への報道が不可欠ですが、今後求められる取組みをどの様にお考えでしょうか。

秋田:
非常に重要なご指摘だと思います。私個人としては、取り調べの可視化には92年ころから取組み、その関係で海外の制度をいろいろ見てきました。どんな国の捜査官も、冤罪を起こしてはいけない、間違ったときは大変な事になるという思いが非常に強いと感じました。どこの国でも冤罪事件は起こるが、それを反省し、その反省の上に立って今後どう対応していくのかという取組みがあります。

一方、日本の検察官は冤罪被害を生んでいるという自覚が非常に乏しい。冤罪を生んだ事に対して、山岸社長に謝罪をする姿勢が全くないのです。自分たちが犯した過ちの大きさを理解しておらず、強い違和感を覚えます。村木さんに多大な被害を与えた障害者郵便制度悪用事件について、あの事件では失敗したと思っているかもしれませんが、それが人権侵害を生んで大変な被害を与えたという意識が強いとは思えません。

また、捜査機関だけでなく、裁判官も深刻な冤罪被害を生んでいる、それに苦しむ被害者がいるという思いが乏しい様に思いますし、裁判官が謝るという事も殆どありません。多くの裁判官は冤罪被害者に深刻な被害を与えた時、冤罪被害が起こった時、どの様に今後の裁判のあり方を見直して行くかという観点が、日本では育っていない現状があると思います。

冤罪被害が深刻な問題を持っているという事を検察官、裁判官が自覚する枠組みを作る事で、冤罪を防ぐ事に繋げていくことが必要です。雪冤のために費やされた時間や、冤罪被害者が受けた屈辱や奪われた人間関係を、取り戻すことはできません。冤罪により家庭が崩壊したケースはいくつもあります。もっと真剣に冤罪被害に向き合うという姿勢を、社会全体で、政府機関で、いろんなところで取組みを広げていく必要があると思います。

北川:
今回の告発の報道内容を通じ、国民や国会等に司法の在り方を認識してもらい、報道機関にも再発防止を強く意識してもらうことに繋がる事を期待しています。

秋田:
報道が不十分になりがちになる一つの要素は、刑事記録の利用が強く制限されていることです。弁護人に開示された記録は目的外使用を厳しく制限されています。

プレサンス事件では、現在国賠訴訟を起こしていますが、山岸さんを冤罪に陥れた刑事記録を、弁護側からは外に出せません。では国側からちゃんと証拠として出すのかというと、国側は自分たちにとって必要な限りに必要な範囲を出すという方針です。たとえば山岸さんの部下を検察官が怒鳴りまくっているシーンの録画さえも、必要性がなく出さないと言っています。そのため、私たちの訴えは迫力を欠いてしまうのです。マスコミにとっても歯がゆいはずです。

政府、国側には自分たちの都合のよいものだけ出せばよいという発想があり、それ以上のものを国民に知らせる必要はないという基本的な考え方があります。こうした姿勢を変えさせ、国側が持っている情報を刑事証拠も含め、国民の目に正しくふれるという事を制度化していくべきです。そのためには、目的外使用の禁止の問題もきちんと見直していく事が重要で、それが出発点になると思います。

北川:
内部告発も含め、最近のネット社会では目的外使用は完全には封じる事が出来ないと思います。一例として、海外から現状の日本司法に疑問を抱く声もあり、日本の弁護士資格を持つ外国人を通して、海外に日本の司法の実態を知らしめる事も方法として考えます。海外からのアプローチ、ネットを介して国民が実態を認識し声を出し、国が動く状況を作り出す事を考えます。

秋田:
いろんな問題がグローバルスタンダード化されてきています。取り調べの際の弁護人の立ち会いはグローバルスタンダードですが、日本の捜査機関は立会いを忌み嫌っています。立会いを実施している海外からは立会いを認めても問題ない、むしろ取調べの質が上がったという声もあります。

冤罪被害の問題も含めて海外と交流を深めていく必要があります。大きな問題として、日本人にとっては言葉の壁が高く、共通言語である英語で発信し、コミュニケートする事が必要ですが、日本はその分野でも遅れていて、発信力が弱いのが現状です。

北川:
海外から問題提起された方が早いのかもしれません。外から見て、何がどうおかしいのか指摘され、検察の中で少しでも早く組織改革していかないと、世界の潮流からみても日本の司法は取り返しがつかない状況になるのではないかと危惧しています。

今日は、お忙しい中、貴重なお時間を頂戴してのオンライン対談、ご意見賜り有難うございました。

投稿者:北川 やすとし


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